はじめに(安全面には十分気をつけよう)
プライベートでクライミングウォールを作りたい場合、DIYで作ることができます。まず、初めに絶対言っておくべきことは、DIYで作る場合は、工事中に事故が起こりケガ、最悪は死亡事故につながることもあるということです。個人でクライミングウォールを作られる際は、必ずヘルメット、手袋、安全靴、防護ゴーグル等をして、安全に気をつけて、そして自己責任で行うようにしてください。私は、あなた方がやる工事に関して、一切の責任を負うことができませんので、十分注意してください。
かなり丸ノコ、グラインダー等の建築工具を使いますし、クライミングウォールというものは前に傾斜した壁になっており、構造物としては不安定なものです。また、工事では高いところに登りますので、本当に落ちて大けがなどしないよう注意してください。
どのような壁を作るかの方針を決めよう
これから、私は自作のクライミングウォールを作ろうと考えております。それらの工事を通して、全世界にクライミングウォールの作り方をお伝えすることができると考えています。
私は、以前、クライミングジムの経営者でした。最大で、4店舗のクライミングジムを保有し、経営しておりました。そらら4店舗のクライミングジムは、すべて私の手作りです。改築等を含めて私は、10回程度のクライミングジムを建設した経験があります。
それらの経験を含めてお話をしていきましょう。
まず、どこに壁を作るかをイメージします。
今から作る場所は、鉄骨、スレートで作られた約100平方メートルほどの倉庫です。高さは約4メートルです。下地はコンクリートです。
基本的には高さが5メートル、建物は木造でも鉄骨でもよいです。屋外でも作ることはできますが、ホールド、パネルの傷みが激しいので、あまりおすすめしません。下地はコンクリートでも板敷きでもかまいません。ある程度の水平がとれていることがよいと思います。砂利敷き、砂地、芝生等でも建てることは可能ですが、難しくなります。
なお、コンクリート敷きの場合は、排水を考えてどちらかにゆるく傾斜させていることが多いです。レーザー式の水平器で測量をしておく必要があります。
構造物が全くない場合でも鉄骨を組めば、ある程度はどこでもボルダリング壁を作ることができます。
今回の私のボルダリング壁は、
・高さ4m
・鉄骨スレート造り
・単管パイプで構造物と仮固定する
・床はコンクリート
という条件になります。
これらの条件は現場によって変化しますので、一概には何とも言えない部分があります。しかし、今回はこの条件で壁を作りながらレクチャーしていきます。
紙模型で設計図を描いてみよう
ボルダリングジムというのは、3Dの建築物です。それらをまず、大雑把にデザインしていきます。パソコンでCADというソフトウェアが使えるのであれば、CADを使うのが推奨です。建築のお仕事をされている人は、CADのソフトウェアが使えるでしょう。しかし、建築関係などでない普通の方はCADは使えないと思います。
CADのソフトはJW-CADというフリーのかなり立派なソフトウェアがあって、ウィンドウズPCであれば、無料でインストールすることができます。Youtube上にはJW-CADの使い方と検索すると本当にたくさんの指導動画があります。たぶん、3日くらい練習すれば、使いこなせるようになるかと思います。
しかしです、ボルダリングジム建築を本業にされる方は、CADのソフトが使えるとすごく便利です。役所、業者に説明する設計図などはCADで作ることが必須です。しかし、一般の方は、CADを使うのは1回きりなのです。せっかく3日かかって覚えても基本的には1回きりしか使わないので、無駄が多いです。
私がおすすめするのは、100円ショップで売っている道具だけを使った「紙CAD」です。紙で簡単な3DのCADを作るのです。難しいソフトウェアは一切使わないので、素人の方でも簡単にできます。ソフトウェアで作る3DのCADよりも見やすいので、紙CADで十分です。
あと、専門的な3DのCADを使ったとしても、クライアントの方に分かりやすいように紙模型を作ることもあるんだそうです。だから、全然紙のCADでも問題ないです。
材料
・厚紙(方眼紙が入っているものがよい)
・セロテープ
・カッター
・ハサミ
全部、100円均一ショップで買えます。
とりあえず、自分のクライミングウォールを建てたい場所を測量してください。その広さに合わせて、厚紙を切り貼りし、立体模型を作っていきます。
立体模型でないと分からない部分、イメージしにくい部分もあります。
道具を揃えよう
DIYでボルダリング壁を作る場合には、それなりに道具が必要になってきます。それらはかなり高価です。だいたい10万円前後は、道具代がかかるかなと思います。
必要な道具
・丸ノコ
・インパクトドライバー(プロ仕様のものがよい、DIY仕様のものはゴミでお金の無駄になります)
・グラインダー
・サンダー
・電気ドリル(あれば、インパクトドライバーのバッテリー消費を抑えられる)
他には脚立が2脚(大小あるとよい)
・工具を下げる腰袋、ベルト
・ヘルメット
・手袋(滑り止めのゴムがついたもの)
・工具箱(だいたい一式入ったもの)
特にインパクトドライバーが重要です。パワーがないものは、使い物にならなくなることが多いです。私はマキタ社製の3万円程度するものを使っておりますが、非常に快適です。なるべくよいものを使ってください。
丸ノコ定規を作る
パネルを切るので、アングルを切るために丸ノコ用の定規を作りましょう。
丸ノコに付属している金属製のスライド定規が必要になります。ホームセンター等でも売っているので、スライド定規を使用します。
スライド定規があるから、それを使えばよいと思うかもしれません。ただ、180cm、90cmなど長い距離を定規で真っ直ぐ切るのは、スライド式の定規ではかなり難しいです。あと10度、20度など微妙な角度調整の定規を作れるのも丸ノコ定規の特徴です。
また、丸ノコ定規を自作する理由としては、丸ノコそれぞれでノコ歯とジョイント部分の距離がメーカー、型番で微妙に違うからです。なので、丸ノコ1台につき、専用の丸ノコ定規が必要になります。
あと、重要なことですが、丸ノコ定規はある程度使うと、定規が狂ってきます。プロのクライミングウォール職人の方は、現場に行くたびに、丸ノコ定規を作成する人もいます。そうでなくとも現場を3回くらい程度変わったらだいたい丸ノコ定規を取り替えるそうです。ずっと永続的に使えるわけではないことを覚えておいてください。
作業台を作る
丸ノコを真っ直ぐ使うためには、作業台が必要です。市販の作業台もあるので、そういうものを利用する方法もあります。
私の場合は、ツーバイフォー材で、作業台を現場で組み立てます。
このツーバイフォー材の作業台はかなり頑丈で、本職の大工さんも驚かれます。
仮設の作業台ですと、ちょっと切りづらい点もあって、パネルを曲がって切ってしまうと無駄な材料も増えますし、逆に時間もかかってしまうと考えているからです。
私の作った作業台ですが、作業の最後には分解して、ツーバイフォー材は現場の材料として壁に組み込むので全く無駄がありません。自分で作業台を持ってくると、また作業台を車に積み込んで持って帰る必要がありますから、それも必要ないです。1日で終わるような現場でしたら、作業台を持ってきますが、10日程度かかる作業であれば、一番最初に作業台を作って、壁の組み立てが終わる直前に作業台を分解して壁の部材にすることも多いです。
現場の水平をとる
コンクリートの床にクライミングウォールを作る際には、地面のレベルを調べます。前にも言った通り、コンクリートの床には水を流して作業をした後で、床に水がたまらないように緩く傾斜をつけてあることが多くあります。その辺のことを十分に調べてください。床が傾斜している場合には、基準点を作って、そこから一番無理がない場所から壁を立ち上げる必要があります。
床に印をつける
設計図と現場の寸法が違うということも全くないわけではありません。そうならないように事前に現場を下見できるのであれば、そうするべきですが、現場が非常に遠い場合などは初めてきた現場で作業をはじめる場合もあります。
初めてきた現場のときには、スケール、レーザータイプの距離計、レーザーの水平器等で現場の大きさを精密に計測し、床にマジック、チョーク、墨、ガムテープなどで線を入れます。
これで、どこに壁の基準を置くかを決めます。その決め方は結構、ベテランの技みたいなところが出てきます。
パネルを準備する
工事の受注が決まり、現場の日程が決まったら、パネルの準備が必要です。
パネルは、クライミングウォール用の専用のパネルが売られているのではなく、職人さんが自分でコンパネ、合板に穴をあけ、爪付きナットをハンマーで打ち込んでいきます。
パネルに爪付きナットを打ち込んでいきます。
パネルを爪付きナットに打ち込んだ後のパネルですが、表、裏、裏、表というようにして、爪付きナットがある面同士が向かい合わせになるように積みましょう。爪付きナットがある面とない面が向かい合わせとなると、爪付きナットが他の面を傷つけることがあるので注意しましょう。
塗装は、パネルを貼り付けた後でやる場合もあるが、パネルを事前に塗装することもできます。その場合には、相当広い場所が必要です。
工事を始める
まず、工事を始めますが、工事で大切なことは2点です。
・パネルを大量に使う、簡単な場所から作っていく。
・パネルは適当でもいいから、どんどん組み込んでいき、壁に組み込んだパネルを足場に壁を上に伸ばしていく
そういうことです。普通の現場ですと広さが足りなくて、パネルが現場の床に置いてある場合というのも多いです。パネルが現場の作業を邪魔してしまうことが多いです。パネルを壁に取り付けることで、床のパネルを消費させて地上の作業をやりやすくします。
次にパネルを適当でもよいので、壁に組み込んでそれを足場にします。きちんと支柱を寸法通りに作ってからパネルを入れるのではなく、少し支柱を入れたらどんどんパネルを張っていきます。そこを足場にしていくと、作業するのが怖くなくて、作業がはかどります。壁に取り付けたパネルを足場にどんどんパネルを入れていってください。
三角形にパネルをカットして貼っていく
立体の部分にパネルを入れていきますので、場合によっては数学の問題の「ねじれの位置」にパネルを入れないといけないことがあります。その場合は、三角形のパネルを使えばどのような立体面にもパネルは組み入れられるということです。
三角形のパネルのカットは非常に難しいです。自在金という可変式の定規を2個用意してください。大小2つくらいサイズがあるともっとよいと思います。
基本としては、三角形の形に1か所の長さを測り、2か所の角度を自在金で測定します。1辺の長さと2角の角度が決まると三角形の大きさを決めることができます。
あと1つは、2辺の長さと1角の角度が決まると三角形が特定できます。
内側のアングルで角度を少し内側に丸ノコで切る部分があり、これが一番難しいです。
三角形にパネルをカットするのは、何度も何度も失敗します。何度も失敗して上手くカットできるようになりましょう。
パネルの角をグラインダーで丸める
どうしてもパネル同士のはり合わせの部分でとがった部分がでてきます。
そういう部分は、グラインダーで木材を丸める必要があります。大変ホコリがでて、グラインダーも片手でないと制御できない部分もあり、大変危険です。本当に気をつけて作業をしてください。
場合によっては、グラインダーではなく、手で持つタイプの紙やすりでゆっくり削ることもあります。時間はかかりますが、機械式のグラインダーよりも数段安全に作業できます。
パネルの隙間は、パテで埋める
どうしてもパネルとパネルの間に隙間ができることがあります。パネルの隙間に関しては、いろいろ原因はあります。
一番多いのは床の水平があってなかった。この場合には、上のパネル同士ほど隙間がだんだん広がっていくので分かります。最初に基準が水平に引けていないとこうなりまして、もう途中から修正は無理です。最初が肝心ですね。
次に多いのは、パネルのゆがみ。工業製品のコンパネですが、ロットによっては反っているものや寸法がちょっと狂っているものも時々あります。こればかりは仕方ないので、相性のよいパネルに替えたりします。
いろいろパネルとパネルの隙間ができてしまうのは、嫌なものですが、仕事で作る壁でなければそこまで気にする必要はないと思います。
あと、どうしてもやってはいけないのは、木工ボンドでパネルとパネルの間をつないでしまうことです。これは、クライミングウォールを改築したりするときに大変です。全くパネルがはがれなくなりますから、注意が必要です。なるべくパネルは木工用接着剤でくっつけないようにしてください。
なお、パテについてですが、ホームセンターに売っている木工パテでよいです。理由としては、グラインダー等で削れること。また、木工パテの上に塗装もできるからです
パネルをサンドペーパーで磨く
パネルの塗装が終わっている場合で、そのまま完成の場合は、パネルを磨くのはしなくてよいです。パネルを組立てから塗装する場合には、紙やすりと機械式のサンダーで磨きます。
磨いた後にシーラーを1回塗り、水性塗装の場合は2度塗りします。
ウレタンのクリア塗料の場合は、1回塗料をローラー塗りしたのちにサンダーをかけて磨き、最後に仕上げ磨きします。2度塗りすることになります。
他には、オイルステイン、油性塗料などいろいろな塗料で塗ることができます。それらの塗料によって壁の特性も変わってきますので、注意が必要です。
ボルダリング用のマットを敷く
ボルダリング用のマットは非常に高価です。軟質の発泡ポリウレタンを使います。
この頃は、ボルダリングジムを建てる場合があるので、注文を受け付けてくれる業者もあります。
たいていの場合は、2m×1m×30cmみたいな感じの大きさのものを買い、それを自分で切断します。切断はカッターでもできないことはないですが、きれいに切断したいのであれば、出刃包丁で切るときれいに切れます。
マットのウレタンを組み入れたならば、最後にマットカバーを取り付けます。マットカバーが動かないようにしっかり固定する必要があります。
マットカバーは、ビス等でしっかり固定するようにしてください。ボルダリングしている人の足の力は大変大きくて、固定がうまくいっていないとすさまじく動きます。
マットを敷き終わったらボルダリングウォールとして使うことができます。
クライミングホールドを購入しましょう。ここで、宣伝で大変申し訳ないですが、クライミングホールドに関しては、当方でも商品がございます。大変安くて、使えるホールドですので、安いホールドで大量に欲しい方は、ぜひご検討ください。
クライミングホールドと取り付けるためには、ボルトが必要です。日本でボルトを使う場合はミリネジ、M10サイズのものを買うようにしましょう。M10のキャップスクリューボルトはホームセンターに取り扱いはほとんどないと思います。かなり特殊なネジになりますが、ネジの専門業者であれば確実に取り扱いがあるものです。
できれば、最初の爪付きナットと同じく購入されればよいでしょう。
ハリボテも作ろう
最近のボルダリング大会、コンペで絶対に見かけるのがハリボテです。
ここまで、自分でボルダリング壁を自作できたのであれば、ハリボテの自作も可能でしょう。
そこで、基本的なハリボテの作り方も、述べておきます。なお、木製のハリボテについても私の方で販売をしております。海外からの輸入品に比べて大変リーズナブルな価格になっておりますので、ご検討ください。
ハリボテを作る材料として
・15㎜厚のコンパネ
・爪付きナット
・20割の杉材
・木工ボンド
・コーススレッドビス
他には丸ノコ定規、固定用のクリップ等があればよいです。
動画で簡単に説明してありますが、それらはとても基本的なものです。さすがに難しいハリボテの作り方に関しては、企業秘密で今のところ公開はしておりません。よければ、複雑なハリボテに関しては、当方にご注文頂ければ幸いです。